ミルクを70度以下で作ってしまった!飲ませても大丈夫?
赤ちゃんのミルクを70度以下のお湯で作ってしまった時、多くの保護者の方が「飲ませても大丈夫だろうか」と強い不安と焦りを感じることでしょう。
大切な赤ちゃんの口に入るものだからこそ、心配になるのは当然です。
結論からお伝えすると、70度以下で作ったミルクを赤ちゃんに与えることは、リスクを避けるために避けるべきです。
もし、まだ飲ませていないのであれば、そのミルクは作り直してください。
万が一、すでに飲ませてしまった場合でも、すぐに深刻な症状が出るとは限りません。
まずは保護者の方が落ち着いて、数日間、赤ちゃんの様子を注意深く観察することが重要です。
まずは落ち着いて!すぐに飲ませるのは避けるべき理由
なぜ70度以上のお湯でミルクを作る必要があるのか、その理由は、粉ミルクに製造過程でごく微量に含まれている可能性のある「サカザキ菌」や「サルモネラ菌」といった細菌を殺菌するためです。
これらの細菌は、70度未満の温度では完全に死滅させることができません。
特にサカザキ菌は乾燥に非常に強く、開封後の粉ミルクに家庭内で混入し、低い温度で調乳したミルクの中で急速に増殖する危険性があります。
大人であれば問題にならないようなわずかな菌の数でも、赤ちゃんは体のあらゆる機能が未発達です。
特に消化器官や免疫システムはまだ十分に成熟していないため、細菌に対する抵抗力が非常に弱いのです。
この時期の赤ちゃんを守るためには、「万が一」の可能性を限りなくゼロに近づけることが育児の基本です。
安全を最優先に考え、70度以上のお湯で調乳するというルールは、赤ちゃんを細菌感染のリスクから守るための、非常に重要な「お守り」なのです。
もし飲ませてしまったら?赤ちゃんの様子で確認すべきポイント
70度以下で作ったミルクを赤ちゃんに飲ませてしまった場合、自分を責めたり、過度にパニックになったりする必要はありません。
大切なのは、冷静に赤ちゃんの変化を見守ることです。
数日間は、以下の体調変化がないか、細心の注意を払いましょう。
確認すべき主な症状は、発熱(38度以上)、何度も繰り返す嘔吐、水のような激しい下痢、そして普段と違うぐったりとした様子がないかという点です。
いつもより機嫌が悪い、哺乳する力が弱い、反応が鈍いといった変化も重要なサインです。
サカザキ菌の潜伏期間は数日程度、サルモネラ菌の場合は一般的に8時間から48時間程度とされています。
これらの期間は特に注意深く赤ちゃんの様子を観察し、もし何か一つでも異常が見られた場合は、自己判断せずに速やかに小児科などの医療機関を受診してください。
その際、「いつ、何度くらいのお湯で、どのくらいの量のミルクを飲ませたか」という経緯を具体的に医師に伝えることで、よりスムーズで的確な診断につながります。
作り直すべき?70度以下で作ったミルクの具体的な対処法
70度以下のお湯で作ってしまったミルクの最も安全で確実な対処法は、赤ちゃんに与えずに廃棄し、正しい方法で作り直すことです。
たとえ一口も飲んでいなくても、人肌程度の温度は細菌が最も増殖しやすい環境であるため、時間の経過とともに菌が増えている可能性があります。
「もったいない」と感じる気持ちはよく分かりますが、赤ちゃんの健康と安全には代えられません。
育児に失敗はつきものです。
大切なのは、間違いに気づいた時にどう行動するかです。自分を責めすぎず、「次から気をつければ大丈夫」と気持ちを切り替えて、正しい手順で安全なミルクを作り直してあげましょう。
もし、すでに飲ませてしまった後であれば、前述の通り、赤ちゃんの体調を数日間しっかりと観察し、異変があればすぐにかかりつけの医師に相談するというのが、愛情のこもった適切な対処法となります。
なぜミルクは70度以上のお湯で作る必要があるの?
ミルクの調乳温度が70度以上と厳密に定められているのには、赤ちゃんの命と健康を守るための、科学的根拠に基づいた明確な理由が存在します。
かつては今よりも低い温度(40~50度)で指導されていた時期もありましたが、その後の研究でサカザキ菌などのリスクが明らかになり、より安全な基準が国際的に設けられるようになりました。
70度以上で殺菌すべき「サカザキ菌」の危険性とは?
「サカザキ菌」は、土壌や水、乾燥した食品など、私たちの身の回りの自然環境の中に広く存在する細菌です。
健康な大人であれば、万が一口にしても問題になることはほとんどありません。
しかし、免疫機能が未熟な赤ちゃん、特に生後28日未満の新生児や、予定より早く生まれた低出生体重児にとっては、命に関わる非常に危険な存在となり得ます。
この菌が粉ミルクの製造過程や、家庭での開封後に混入する可能性はゼロではありません。
実際に2022年にはアメリカで、サカザキ菌が混入した粉ミルクが原因で複数の赤ちゃんが感染し、亡くなるという痛ましい事故も発生しています。
サカザキ菌に感染すると、敗血症や壊死性腸炎といった重篤な病気を引き起こし、特に髄膜炎を併発すると、感染した乳幼児の20%から50%が死亡するという深刻なデータもあります。
命が助かった場合でも、発達の遅れや水頭症といった神経障害などの重い後遺症が残る可能性があり、最大限の注意が必要な細菌なのです。
赤ちゃんがサカザキ菌に感染した場合の症状
赤ちゃんがサカザキ菌に感染した場合、前述の通り、敗血症、壊死性腸炎、髄膜炎といった、命に関わる可能性のある重い病気を発症するリスクがあります。
これらは具体的に、血液中に細菌が侵入して全身に広がる「敗血症」、腸の組織が壊死してしまう「壊死性腸炎」、脳や脊髄を覆う膜が炎症を起こす「髄膜炎」など、いずれも緊急の治療を要する深刻な状態です。
具体的な初期症状としては、発熱、哺乳力の低下(ミルクを飲む力が弱くなる)、嘔吐、下痢、ぐったりして元気がない、不機嫌、顔色が悪いといった様子が見られます。
これらの症状は他の一般的な病気とも似ているため見分けがつきにくいですが、サカザキ菌感染症は症状の進行が非常に速い場合があるため、「いつもと何か違う」と感じたら、決して自己判断せずに医療機関に相談することが極めて重要です。
WHO(世界保健機関)も推奨する国際的な調乳基準
こうしたサカザキ菌のリスクに国際社会が対応するため、2007年にWHO(世界保健機関)とFAO(国連食糧農業機関)は、「乳児用調製粉乳の安全な調乳、保存および取扱いに関するガイドライン」を共同で公表しました。
この中で、粉ミルクに存在する可能性のあるサカザキ菌を殺菌するため、調乳には70度以上のお湯を使用することが世界共通の基準として強く推奨されています。
この国際的な基準を受け、日本の厚生労働省もガイドラインを改訂しました。
厚生労働省の資料にも「70°C 以上の湯で PIF を調乳する場合、粉乳中に存在している E.Sakazakii についてはこの温度で死滅することから、リスクは劇的に減少する」と明記されています。
現在では日本の母子手帳や、国内で販売されている全ての粉ミルクメーカーも、この基準に則り、70度以上のお湯で調乳することを統一した安全基準として指導しています。
もう失敗しない!正しいミルクの作り方と温度管理のコツ
一度でもミルク作りに失敗すると、「また間違えたらどうしよう」と次から不安になってしまうものです。
しかし、正しい手順と便利な道具の活用法を知っておけば、誰でも安全で簡単なミルク作りが可能です。
日々の育児の負担を少しでも軽くし、自信を持ってミルク作りに臨むためにも、基本的なポイントを再確認しておきましょう。
【基本】安全な粉ミルクの調乳手順をステップで解説
安全なミルクを作るための基本的な手順は、まず調乳を始める前に石鹸で指の間や手首まで丁寧に洗うことから始まります。
手についた見えない雑菌を哺乳瓶に入れないための、重要な第一歩です。
次に、洗浄・消毒済みの清潔な哺乳瓶に、必要な量の粉ミルクを付属のスプーンですりきって正確に入れます。
そして、一度沸騰させた後、70度以上に保ったお湯をできあがり量の半分ほど注ぎます。
哺乳瓶が熱くなるので、清潔なタオルなどで持ち、円を描くように軽く振って粉ミルクをしっかりと溶かします。
この時、激しく上下に振ると泡立ちが多くなり、赤ちゃんが空気を飲み込む原因になることがあるため、優しく溶かすのがコツです。
完全に溶けたら、できあがり量の目盛りまでお湯を足し、再度乳首とフードをつけてよく混ぜ合わせます。
最後に、哺乳瓶を流水に当てるか、冷水を入れたボウルにつけるなどして、赤ちゃんがやけどをしない人肌(約37度)まで速やかに冷ませば完成です。
与える前には、必ず手首の内側など、皮膚の薄い部分にミルクを数滴落とし、熱くないか、ぬるすぎないかを確認する習慣をつけましょう。
70度以上のお湯を簡単に用意する方法(電気ポット・ケトル活用術)
毎日お湯を沸かす手間を省き、かつ正確な温度管理をするためには、便利な家電を活用するのが非常におすすめです。
多くの家庭用電気ポットには、70度や80度、90度といった温度設定で保温できる機能がついています。
これを活用すれば、夜中の授乳でも、赤ちゃんが泣き出してからお湯を沸かす必要がなく、いつでもすぐに適切な温度のお湯を用意できます。
また、ティファールに代表されるような電気ケトルも、少量のお湯を素早く沸かせるため大変便利です。
さらに、ウォーターサーバーを導入するのも一つの有効な手段です。
多くのウォーターサーバーは80度から90度のお湯がワンタッチで出るため、お湯を沸かす手間が一切なくなります。
加えて、RO水など不純物が除去された安全な水を使用しているものが多く、ミルク作りの時間短縮だけでなく、「安全な水を使っている」という精神的な安心感にもつながり、育児のストレス軽減に大きく貢献します。
外出先でのミルク作りはどうする?便利なアイテムと注意点
外出先でのミルク作りには、保温性の高いステンレス製の魔法瓶が非常に役立ちます。
出発前に70度以上のお湯を魔法瓶に入れておけば、数時間は温度を保つことができます。
この時、お湯を冷ますための「湯冷まし(一度沸騰させた水)」を別の水筒で持っていくと、人肌まで冷ます時間を大幅に短縮できて非常に便利です。
70度以上のお湯でミルクを溶かした後、湯冷ましを加えて温度を調整するという方法です。
また、粉ミルクを1回分ずつ小分けにしておける専用の容器(ミルカー)を使うと、外出先で缶からスプーンで計量する手間が省け、衛生的です。
そして、災害時などでお湯が手に入らない緊急の状況に備え、開封してすぐに飲ませられる液体ミルクをいくつか防災バッグなどに常備しておくと、いざという時に赤ちゃんの命を守る備えとなり、非常に心強いでしょう。
ミルク作りでよくある質問(Q&A)
ミルク作りには、温度以外にも様々な疑問や不安がつきものです。
ここでは、多くの保護者の方が抱える共通の質問について、赤ちゃんの安全性を第一に考えた回答を、理由とともに詳しく解説します。
作ったミルクは何時間以内に飲ませるべき?
調乳したミルクは、赤ちゃんにとって完璧な栄養源であると同時に、細菌にとっても増殖しやすい栄養豊富な環境です。
そのため、70度以上のお湯で正しく調乳した場合でも、常温に置いたままにせず、2時間以内に飲ませるのが大原則です。
これは、細菌が一定の時間を経て対数的に増殖を始めるためで、安全マージンとして2時間という時間が設けられています。
もし2時間以上経過してしまった場合は、見た目に変化がなくても、目に見えない細菌が増殖している可能性があるため、たとえ残っていても必ず廃棄してください。
特に赤ちゃんの健康を考えると、作り置きはせず、授乳の都度、新しく作ることが最も安全で理想的な方法です。
ミルクを濃く、または薄く作ってしまった時の対処法は?
粉ミルクの分量や湯量を間違えて、指定された濃度よりも濃すぎたり薄すぎたりするミルクを作ってしまった場合は、作り直すのが唯一の正しい対処法です。
ミルクが濃すぎると、栄養素の濃度が高くなり、赤ちゃんの未熟な腎臓に大きな負担をかけてしまう可能性があります。
最悪の場合、脱水症状を引き起こす危険性もあります。
逆に薄すぎると、赤ちゃんが満腹感を得られず泣いてしまったり、本来必要な栄養素や水分が十分に摂取できず、長期的に見ると体重増加不良など成長に影響が出たりする恐れがあります。
粉ミルクに記載されている通りの正確な計量は、赤ちゃんの健康な発育の基本です。
赤ちゃんの飲み残しミルクは、もう一度温めても良い?
一度赤ちゃんが口をつけた哺乳瓶の中には、唾液に含まれる消化酵素や雑菌が入り込んでしまいます。
時間が経つと、これらの菌がミルクの栄養をエサにして急速に繁殖するため、飲み残したミルクを次の授乳時に温め直して与えることは絶対にやめてください。
たとえ冷蔵庫で保管したとしても、菌の増殖を完全に止めることはできず、安全ではありません。
飲み残しは、もったいないと感じるかもしれませんが、赤ちゃんの健康を守るために必ず捨てるようにしましょう。
また、ミルクを温め直す際に電子レンジを使用すると、液体が不均一に加熱され、部分的に非常に熱い「ホットスポット」ができてしまうことがあります。
これにより赤ちゃんが口の中をやけどをする危険があるため、温め直しでの電子レンジの使用は絶対に避けるべきです。